|
|
|
|
ば け も の や し き |
|
|
|
話し手
編 集 |
:
: |
庄司清一さん(蔵王町曲竹)
蔵王町教育委員会(2009) |
|
むかし、あるところに、化け物屋敷があったんだとさ。夜になると人のすすり泣く声が聞こえて、そこに行った人はみんな殺されてしまうんで、だれも寄り付かなくなって、近所の人たちは困っていたんだと。
そこに、お侍さんが通りがかったんだと。お侍さん、その話を聞いて、
「よし、オレが今夜行って、様子を見てこよう。」
と言ったんだと。
なんでも、この化け物屋敷はもともと、お殿様が暮らしていたお屋敷だったんだと。このお殿様、たいそう和歌の好きなお方で、家来たちといっつも和歌の会を開いて、楽しんでたんだと。
ある時、たくさんの家来の中から三人選んで、和歌の会を開いたんだと。席題は「みずかがみ」として、家来たちにはそれぞれ、歌に「けがもせず」「やけもせず」「ぬれもせず」の言葉を折り込むように、と言いつけたんだと。三人の家来たちはみな、頭のいい者たちだったんだけれど、だれ一人、上手な歌を詠めなかったんだと。三人の家来たちは、それが恥だといって腹を切って死んでしまったんだと。
やがて、その三人は亡霊となって、そのお屋敷を訪れた人に和歌問答を持ちかけるようになったんだと。そして、上手に詠めない人をとり殺すようになってしまい、いつしかお屋敷は化け物屋敷と呼ばれるようになってしまったんだとさ。
お侍さんは、あたりの人たちからそんな話を聞かされて、それでも、夜になると化け物屋敷に向ったんだと。みんな心配してたんだけど、朝になったら、お侍さんは何事もなく帰ってきたんだと。
何でも、お侍さんの言うことには、化け物屋敷に入って、いつまで待ってても何もおこらなかったんだと。そのうち眠くなって、横になろうとしたら、どこかで人のすすり泣く声がしたんだと。ひょっと見ると、髪の毛をふり乱した男の亡霊がす〜っとあらわれて、
「・・・・みずかがみ・・・・けがもせず・・・・」
と言うと、ぽ〜っと消えてしまったんだと。
お侍さんは、ははあ、これが話に聞いた和歌問答か、と思って、少し考えてから
「みずかがみ 槍で突いても けがもせず」
と、詠んだんだと。すると、また亡霊があらわれて、ニッコリと笑うと、ふっと消えていったんだと。
一人目の亡霊が消えるとまもなく、別な男の亡霊があらわれて、
「・・・・みずかがみ・・・・やけもせず・・・・」
と言って消えてしまったんだと。
お侍さんは、今度は
「みずかがみ かがり火に立てど やけもせず」
と詠んでやったんだと。すると、二人目の亡霊があらわれて、ニッコリ笑うと、ふっと消えていったんだと。
またまもなく、別な男の亡霊があらわれて、
「・・・・みずかがみ・・・・ぬれもせず・・・・」
と言って消えてしまったんだと。
お侍さんは、
「みずかがみ 顔はうつれど ぬれもせず」
と詠んでやったんだと。すると、三人目の亡霊があらわれて、ニッコリ笑うと、ふっと消えていったんだと。
その後は、朝まで何も起こらなかったんだと。
お侍さんは、水鏡(きれいな、波のない水面)にうつった人の姿を槍で突いてもけがはしないし、燃え盛るかがり火がうつっても焼けることもなく、そこに自分の顔がうつっていると、まるで水中に自分がいるように見えても、顔がぬれることはない、と考えて、それぞれ歌を詠んでやったんだ。
みんなは、お侍さんの話を聞いて、これでもう化け物に悩まされることはないと、ほっと胸をなでおろしたんだと。んでも、用心のため、お侍さんに、もう一晩化け物屋敷に行ってもらうようにたのんだんだ。たのまれたお侍さん、もう一晩化け物屋敷に泊ったんだけれど、こんどは本当に、なぁんもおこらなかったんだとさ。
|
|
※「蔵王町史 民俗生活編」掲載の「化け物屋敷(話し手:庄司清一さん)」に基づき、その内容・意味・趣旨に変更を加えることなく、文章の順番・文体のみ修正しました。
|
2009.7.28更新 |
|
|
|