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じ ゅ う く は ん ぐ い
十九半杭(前編)

話し手
編 集

我妻正一さん(蔵王町宮司)
蔵王町教育委員会(2009)

 むかしむかし、一人の六部(ろくぶ)がいたんだ。六部ってのは、死んだ者が極楽に行けるようにお祈りするために、方々を旅して、家々をめぐり歩く、お坊さんのことだ。その六部なんだが、旅の途中で日暮れになってしまって、風は冷たくなってきたし、歩き疲れたしで、なんとか泊るところを探しながら歩ってると、道ばたに古い道祖神(どうそじん。村のはずれの道ばたなどにまつられることが多かった神様)のお堂があったんで、ここに泊ることにして、お堂の中に入ったんだ。六部は、すごく疲れていたもんで、すぐに眠ってしまったんだ。

 どのくらい時がたったのか、六部は、なんだか話し声がするのに気付いたんだ。夢うつつのまま聞いていると、なんと、神様たちが集まって、どこかに出かける相談をしてたんだと。そのうち一人の神様が、「いや、うちには今夜泊り客があって、行けないんだ。だから、後でようすを聞かせてくれ。」と言うのが聞こえてきたんだ。六部は、神様のところにも泊り客が来るのか、と、不思議に思ったんだが、よくよく話を聞いてみると、どうやら、その神様というのは、六部が入り込んだお堂の道祖神さまのようだった。泊り客というのは、つまり、六部のことだったんだ。

 そんなやり取りがあって、他の神様たちはどこかに出かけていったから、あたりはまた静かになったんだ。

 しばらくしたら、さっきの神様たちが帰ってきて、六部が泊っているお堂の道祖神さまと話をはじめたんだ。
「どうだった?」
「うん、おなご童(おなごわらし。女の子のこと)だった。」
「それはよかった。して、寿命は?」
「うん、十九半杭(じゅうくはんぐい)にしといた。」

 それを聞いていた六部は、せっかく生まれたおなご童の寿命が、どうして美しい盛りの十九なのか、それに、十九半杭の「半杭」とは、何のことなのか、不思議でならなかったんだ。だけど、神様たちの話に割り込むこともできないんで、だまって寝たふりをしていたんだと。

(後編につづく)



※「蔵王町史 民俗生活編」掲載の「十九半杭(話し手:我妻正一さん)」に基づき、その内容・意味・趣旨に変更を加えることなく、文章の順番・文体のみ修正しました。
※今回掲載した話の中で「十九半杭」と記した部分はすべて、原典においては「十九半」と記されています。本来、原典のまま掲載するのがより良いのでしょうが、今回はストーリーをより強調する目的から、あえて「杭」を加えて記しました。
2009.9.3更新

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